一般社団法人 群馬県公共嘱託登記司法書士協会

解決事例集

不在者財産管理人制度

 地方自治体又は国(以下「官公署」という。)が道路用地として個人が所有する土地を買収する際、登記簿上の登記名義人がすでに死亡していた場合どのような登記手続きを経る必要があるのか。もちろん、はじめから登記簿上の登記名義人の所在が不明な場合も手続き的には同じ扱いとなるのでここでは登記名義人が死亡していた場合を検討してみたい。
 登記名義人が死亡していた場合、登記手続き上、官公署へ売買に基づく所有権移転登記をするには登記名義人の相続登記が必要となる。従って、官公署が土地を取得する際、登記名義人の相続人に事前に相続登記をするように促すか官公署が登記名義人の相続人に売買に基づく所有権移転登記請求権を代位原因とした代位による相続の所有権移転登記をする必要がある。ここで、相続人全員の生存の有無、所在等が判明していれば土地の買収について各相続人と交渉すれば特に問題はない。問題となるのは、死亡はしていないけれども相続人の一部が所在不明だというような場合である。
 民法では、従来の住所又は居所を去って容易に帰来する見込みのないものを「不在者」と定義している。そして、当該不在者の財産に対して利害関係を有する者が何らの権利を行使することができずに放置しなければならないとすれば大きな問題となってしまう。従って、一時的にせよ不在者の財産を管理する必要があり、これが民法上認められている不在者財産管理制度である。利害関係人には、相続人、不在者の財産を買収しようとする官公署、不在者に対し債権や担保権を有する者、不在者の財産を時効取得した者、不在者の債務者なども含まれる。以上の利害関係人又は検察官の申立によって家庭裁判所は不在者の財産管理人を選任して財産管理に必要な処分を命じることができる。不在者財産管理人の申立開始要件として、第1に不在者自身が財産を管理できないこと。第2に利害関係人又は検察官の申立があること。第3に管理すべき財産が存在すること。以上を満たすことによって不在者に対する財産管理人が家庭裁判所の審判により選任されるのである。なお、不在者財産管理人には利害関係が対立しない第三者例えば弁護士、司法書士、税理士等の資格者が財産管理人となる場合が多い。
 以上の手続きを経て家庭裁判所に選任された不在者財産管理人と他の相続人間で用地買収の対象となる土地の相続に関する遺産分割協議が整った結果、当該土地を相続する者との間で官公署が用地買収の交渉を行い、話が成立すれば官公署の嘱託で代位による相続の所有権移転登記と併せて用地買収の所有権移転登記を行うわけである。また、家庭裁判所へ不在者財産管理人の申立をする費用や不在者財産管理人の管理費用等の報酬はどうするのかという点も検討しなければならない。
 最後に、相続における不在者の事案はすべて同じ条件とはならないので各事案ごとに比較検討していく必要がある。

旧樺太引揚者と相続

1.事案の概要

 被相続人の死亡により、配偶者と被相続人の兄弟が相続人となった。  被相続人の親は、旧樺太からの引揚者であった。旧樺太に本籍があったものは、一部を除き戸籍が失われているため、戦後家庭裁判所の許可を得て就籍届出をすることにより新戸籍が編成されることとなっており、被相続人の親もそのような手続きを経ている。
 なお、旧樺太の戸籍は、一部残っているため外務省アジア大洋州局地域政策課に請求すれば取寄せられるが、保管していないものは、保管していない旨の証明が交付される。ただし、この証明は、旧樺太に本籍が置かれていたことがわかる戸籍の存することが必要となる。

2.相続登記手続

 本件においては、母親の出生時の本籍地が判明していたため、その戸籍の記載から婚姻により夫の旧樺太の本籍地への入籍が判明し、証明を得ることができた。
 また、新戸籍の記載事項によると被相続人の続柄欄は「次男」と記載されていたため、樺太在住時に長男の存在することが推定されたが、死亡したのか養子縁組がなされたのか不明であった。事情聴取した結果、他の兄弟の方から長男の位牌があることがわかり、死亡年月日も記載されているとのことであったので、その写真を撮って送ってもらった。
 管轄法務局と打合せの結果、存在が判明している相続人全員から「他に相続人のないことの証明」を提出し、上記外務省の証明と戸籍関係の証明書等を添付することにより相続登記手続きを完了することができた。

工場財団の分離

事案

 工場財団に属する土地及び、工場財団に属しない土地を分筆し、分筆後の土地を群馬県に売却。
 工場財団は3個(同一所有者)第1工場 第2工場 第3工場
根抵当権者
 第1工場に A銀行 B銀行 C銀行 D銀行
 第2工場に A銀行 B銀行 C銀行 D銀行
 第3工場に A銀行 B銀行 E銀行

 通常の分筆・群馬県への売却は、年月日売買の所有権移転登記請求権を代位原因として、分筆・所有権移転登記とも嘱託で行うが、工場財団に属する土地は工場財団から分離して初めて処分できるので以下のとおり。

Ⅰ.分筆登記  工場抵当法第13条第2項により工場財団に属するものは譲渡できないため売買契約は成立せず(仮に売買契約しても当然に無効)、従って代位原因が存在しないので嘱託代位分筆登記が出来ない(登記研究517号P196)。
 よって、工場財団に属する土地は工場財団所有者が申請しなければならず、登記費用は本人負担。尚、当然ながら工場財団に属しない土地は代位による嘱託分筆登記。

Ⅱ.工場財団目録変更登記(分筆による組成物件の土地筆数増加の変更)
Ⅲ.工場財団目録変更登記(売却物件を工場財団から分離する変更)
Ⅱ.Ⅲの変更登記とも根抵当権者の同意書が必要だが、同意書の
 (1)記載方法
 (2)登記簿上の根抵当権者は現在合併や商号変更されているが疑問点だったので、下記(3)と法務局で検討してもらった。
 (1)分筆の同意書及び分離の同意書を銀行毎に各々1件で可
 例A銀行 Ⅱ.3個の工場財団の分筆による変更内容を全て記載し同意
      Ⅲ.3個の工場財団の分離による変更内容を全て記載し同意
 (2)合併・変更証明書の添付で可
 目録変更登記の登記名義人ではないので、根抵当権の移転変更登記不要 尚、同意者(含印鑑証明書)は代表者以外に支配人でも可
 第1工場A銀行(さくら)第2工場A銀行(旧三井住友)第3工場A銀行(現三井住友)
 現三井住友銀行が3個の工場財団の分筆、及び分離の目録変更を各々一括で同意。
 (3)工場図面の添付につて
Ⅱ.Ⅲを連件で申請するので、Ⅱの分筆による変更登記に分筆後の土地を記載した工場図面を添付しても、後件Ⅲの分離の登記で分離後(売却された部分が記載されない)の工場図面を添付するのでⅡの申請に売却削除される土地を記載した工場図面を添付しても意味がないと思ったが、工場抵当登記取扱手続18条の2に規定されている以上添付すべきとのこと。法務局内にもⅡの申請に工場図面は不要の意見があったらしい。

 *工場財団登記はコンピュータ化されていないので登記済証作成のため申請書副本を添付する。また登記完了証が発行されないので、完了証の代わりに登記済証のコピーを各銀行に提出した模様。
ⅡⅢも、工場財団所有者が申請しなければならず、登記費用は本人負担する。

Ⅳ.嘱託による所有権移転登記
 通常の嘱託登記になるが、売買(移転)日付は、分離による変更登記日かそれ以降になり当初売買日と相違するので土木事務所にその旨伝えておく。年末年度末注意。工場財団に属しない土地のみ当初の契約日で先に所有権移転も可能だったが、土木事務所は同一日付を希望。

休眠担保権抹消

1.事案の概要

①依頼人が相続した畑の隣接土地に、父の弟(以下「おじ」という)名義の土地があった。おじ名義にした経緯は不明であるが、父からは相続した土地と一体として耕作していた。今般土地の一部を公衆用道路として○○町に提供するため名義変更(時効取得)とその土地に設定されていた抵当権の抹消登記をする必要が生じた。
②抵当権
 登記簿上抵当権は、昭和の初め頃におじが東京の個人より借り入れた金銭を担保するために設定されていた。おじは現在神奈川県の△△市に在住しているとのことで、依頼者と共に事情を聴きに訪問した。 聴取したところによるとおじは、事業のために抵当権者から借金をしたが、返済はしていないまま現在に至り、抵当権者もどこで何をしているかわからないとのことであった。

2.抵当権の抹消

 抵当権者の登記簿上の住所に事情を説明した書面を送付したが、宛所に該当なしで返送される。 債務は時効で消滅しているので、裁判で抹消登記請求も可能であったが、元利金及び損害金合わせても3000円程度のため供託して休眠担保権の抹消をすることとした。